今日も、夢野発明センターは大勢の子ども達で賑わっていた。
 その子ども達の相手をしながら、ダイナマンの5人は各自の研究に余念がない。
 そんな中、レイの犬が発明センター内を駆け回り、その犬を子ども達が追い掛け回すため、南郷の植木鉢は落とされて割れ、星川の天体望遠鏡はピントが狂い、島の水槽はひっくり返されと弾を除いて散々な目にあう。
 南郷の育てていた植物はなんとか別の植木鉢に移植することができ、星川の望遠鏡もすぐになおった。
 だが、島のひっくり返された水槽にいた魚たちは全滅してしまい、それまでのすべての研究が台無しになってしまった。
「島さん、ごめんなさい…」
 自分の犬が原因なだけに、レイが謝るが、呆然としている島の耳には入っていないようだ。

 そのとき、発明センターの時計から人形が飛び出して、緊急集合の暗号を伝えた。
「みんな、ワンちゃんの散歩に行ってきてね。」
 子ども達が喜んで犬の散歩に出て行くのを待って、5人は基地へ飛び込んだ。

「新高山で発信源の特定できない怪電波が観測された。付近一帯の電気や水道がすべて止まってしまっている。」
 夢野総司令の説明に5人は顔を見合わせた。
「ジャシンカの仕業でしょうか?」
 弾の問いに対し、夢野総司令はおそらくそうであろうと答える。
「奴らが何の目的で怪電波を発しているのか、慎重に調査してほしい。」
「了解!」
 ダイナマンの5人はすぐに新高山に向かい、調査を開始した―。


 調査するダイナマンたちの前に現れたのはメギドだった。
「ようやく来たな、ダイナマン。ここが貴様らの墓場となるのだ!」
「なんだと!?」
 メギドの言葉に驚愕する5人。
 そして、その5人の前にかつて倒したはずの進化獣たちが現れた。
「そうか、怪電波は俺たちをおびき出すための罠だったのか!」
「今ごろ気づいても遅いわ!やれ、亡霊たちよ!」
 メギドの指示で“亡霊進化獣”たちが一斉に襲いかかる。
 5人は変身し、亡霊進化獣たちと戦うが…

「こいつら、実体がない!」
 イエローの言葉どおり、パンチもキックも亡霊たちの体を突き抜けてしまう。
 つまり、どんな攻撃も通用しないのだ。
 しかし、亡霊たちの仕掛けてくる攻撃は、ダメージとなってダイナマンたちを襲っている。
 いつのまにかメギドが姿を消していることに気づいたレッドは、どこかで亡霊たちを操作している者がいることを確信した。

「どこかにこいつらを操っている奴がいるはずだ。そいつを探すんだ!」
「無理だって!こいつらで手一杯だよ!」
 亡霊進化獣は先ほどから増えつづけて、ついにダイナマンは1人で2体の亡霊を相手にすることになっていた。
 次第に追い詰められて行くダイナマンたち。
 そんなとき、ついにブラックが茂みの中に亡霊進化獣を操っているらしい進化獣を見つけた。
 その進化獣は、かつて倒したヘビシンカにそっくりであった。

「お前が亡霊を操っているのか!?」
 自分を襲う亡霊たちを他の4人に任せ、ブラックはヘビシンカそっくりの進化獣に向き合った。
「だとしたらどうする。私はかつての私ではない!」
「じゃあ、やはりお前はヘビシンカ!お前も亡霊か!?」
「私は亡霊ではない!メギド様にパワーアップしていただいたのだ!」
 ヘビシンカは得意そうに、自分の新たな能力について語り出した。
 自分の毒に冒された者は、以前のように操られるのではなく、24時間以内に死に至ること、そして、その毒に対する解毒剤となるものはこの世には存在しないこと…。

 ブラックは、得意げに語るヘビシンカに向かってクロスカッターを投げつけた。
 自分の講釈を邪魔されたヘビシンカは、ブラックに対し何らかの呪文のようなものを唱え始めた。
 ブラックは自分の目が回るのを自覚した。
 苦しむブラックとそのブラックに迫るヘビシンカに気づいたブルーが、フリスビーでヘビシンカを攻撃する。
 この攻撃で亡霊たちが一斉に消えた。
 そして、一斉に4人のダイナマンがヘビシンカに飛びかかる。
 体勢を整えたブラックは、仲間たちが離れた一瞬にクロスカッターをヘビシンカに投げつけた。

「うわあ!」
 ブラックの耳に飛び込んできたのは、ヘビシンカではなく、ブルーの悲鳴だった。
 はっと我に返ったブラックの目に映ったのは、変身が解け、血まみれになってその場に倒れこむ島の姿だった。
「島!」
 ヘビシンカはクロスカッターをすんでのところで回避していたのだ。
 そして、クロスカッターはブラックが気づかなかったところにいたブルーに命中したのだった。
 ヘビシンカは標的をブラックから抵抗できない島に変え、彼の首筋に噛み付いた。
 怒りに震えるレッドの科学剣・夢の翼がヘビシンカに炸裂し、ヘビシンカは一旦退却した。
「島!すまない…」
 変身を解いた星川が、島を抱き起こす。
「竜さん…、僕なら大丈夫だから…、心配しないで…」
 苦痛に顔を歪めながらも島は笑ってみせる。
 星川と弾が両側から島を支えるようにして、ダイナマンたちはその場を離れた。


 その頃、夢野発明センターでは、犬の散歩から帰ってきた子どもたちと夢野博士が遊んでいた。
 戻ってきた5人は、島を司令室の椅子に座らせ、弾と南郷、レイが発明センターの方へ向かった。
「ん?星川くんと島くんはどうした?」
 入ってきた3人に気づいた夢野博士が訊ねる。
 その夢野博士に島が怪我をし、ヘビシンカの毒に冒されたということを弾がそっと耳打ちした。
 夢野博士の表情がさっと変わり、弾を凝視する。
「今、星川がついてます。」
「そうか。…あー、君たち、遅くなるといけないから、今日はもうお家に帰んなさいね。」
 そう言って夢野博士は子ども達を帰宅させ、3人と共に司令室へ向かった。

 司令室では、星川が島の傷の手当てを終えたところだった。
 夢野博士の指示で、島を医務室に移す。
 司令室に到着した頃はまだ島の意識はあったのだが、このときはすでに意識がなくなっていた。
 夢野博士は4人に手伝わせて毒の分析を始めたが、ヘビシンカの言葉通り、その毒はこの世のものではなかった。
「そんな…!じゃあ、島さんは…!」
 レイの表情がさっと青ざめる。他の3人も息を呑んでベッドに寝かされた島を見下ろす。
「なんとか解毒の方法を見つけよう。私がやるから、君たちは少し休んでいなさい。」
 戦いから帰ってきたばかりの4人を思いやって、夢野博士が言う。
 夢野博士は司令室に向かい、弾たちも医務室を出て行こうとした。
「星川?」
 その場を動こうとしない星川に気づいて、弾が声を掛ける。
「俺がそばについてる。島がやられたのは、元はと言えば、俺のせいなんだ。俺がもっと気をつけていれば…」
 いつになく沈み込んでいる星川に、南郷が何かを言いかけたが、弾がそれを止めて3人は医務室を出ていった。


 発明センターの方へ戻った3人は、すっかり暗くなった空を窓から眺めながら所在なげにたたずんでいた。
 レイの犬やねずみたちの鳴き声だけが寂しく響いている。
 昼間、犬や子どもたちによってひっくり返されたため、島の水槽には一匹の魚もいなかった。
 それがまた、3人の気持ちを沈めていた……


 星川はずっと島のそばについていた。
 彼の脳裏には傷ついて倒れこむ島の姿が焼き付いて離れなかった。
 渾身の力を込めて放ったクロスカッターはそれだけで、進化獣にかなりのダメージを与えることが出来る。
 そのクロスカッターを島はまともに受けているのだ。
 怪我だけでもかなりの重傷だった。
 星川は極度の自己嫌悪に陥っていた―。


「…さん、竜さん、聞いてください。私はいつか、島さんにお会いした者です。」
 星川に語りかけたのは、人魚のような姿をした女性だった。
「竜さん、島さんの毒を消す方法が一つだけあります。
 私が島さんに差し上げた貝殻、それを島さんの手に握らせてください。そうすれば、その貝殻から少しずつですが水のようなものが出てきます。 それを島さんに飲ませてあげてください。時間はかかりますが、必ず毒は消えます。お願いです、島さんを助けてあげてください……」

 星川はハッと飛び起きた。どうやらいつのまにか眠っていたようだ。
「夢…?」
 窓の外はすっかり明るくなっていた。
 島の様子を見ると、ほとんど生気が感じられない。
 そこへ、静かにドアが開いて、レイが入ってきた。
「竜さん、私が交代するから、少し休んだら?」
 レイの言葉に星川は首を横に振った。そして、夢の話をレイに聞かせた。
「試してみる価値あるんじゃないかしら。夢野博士も解毒剤見つけられないみたいだし。
 島さんもあの貝殻、大切にしているじゃない。やってみましょうよ。」
 レイに言われて、星川も半信半疑だったが試してみる気になった。

 夢野博士や弾、南郷もやって来て星川が島の手に貝殻を握らせるのを見守る。
 すると、星川の夢の中で人魚が言ったように、貝殻から水のようなものが少しずつ湧いてきた。
 貝殻から溢れ出したその液体をコップに受ける。
 コップに液体が一杯に溜まって、島の手から貝殻を取ると、貝殻に溜まっていた液体がすーっと引いて行った。
「すごいな…」
 目の前で起きていることが、南郷や弾には信じ難かった。
 その液体を少しずつ島に飲ませ、経過を見守る5人。

 島の表情に少しずつ生気が蘇ってきた。
「もう大丈夫だろう…」
 夢野博士の言葉に4人もほっと胸をなでおろす。
 そこへ、ジャシンカの攻撃を知らせる通報が鳴り響いた。
「奴ら、こんなときに!」
 まだ島の意識は戻っていない。
「仕方がない、4人で戦うんだ!」
 弾の言葉で島を除く4人が、基地を飛び出して行く。

 ヘビシンカとメギドを発見したダイナマン。
「現れたな、ダイナマン。…5人揃わないお前らなど、敵ではない!やれ、ヘビシンカ、尻尾兵!」
 メギドの合図で尻尾兵がダイナマンに襲いかかる。
 尻尾兵は簡単に撃退できるものの、再びヘビシンカに亡霊進化獣を出されて苦戦するダイナマン。
「どうするんだよ、これじゃあ、ヘビシンカを倒せない!」
 キリのない亡霊たちの攻撃に、イエローが叫ぶ。
 亡霊を消させるためには、ヘビシンカを攻撃しなければならない。
 だが、ヘビシンカを攻撃しようとすれば必ず、亡霊進化獣の1体が妨害するのだ。
徐々に追い詰められていくダイナマン。そして、ヘビシンカがレッドに噛み付こうとしたとき―

 ヘビシンカの頭に何かがぶつかり、爆発が起きた。
 虚を突かれたヘビシンカの体がバランスを崩したところを、レッドは見逃さず剣で突いた。
 同時に亡霊進化獣たちが一斉に消える。
「おのれ、誰だ!?」
 歯軋りしてあたりを見まわすメギド。彼が見たものは彼が死んだと思いこんでいたブルーだった。
「ダイナブルー…、生きていたのか!」
 驚きを隠せないメギドは、作戦の失敗を悟って後の始末をヘビシンカに押し付けて退散した。
 ブルーはメギドが退散するのを見届けると、そのままがっくりとひざを折ってしまった。
 毒は消えたとはいえ、傷の方はまだほとんど癒えていないのだ。
「ブルー、大丈夫なのか?」
 ブルーの元に駆け寄り、心配そうに覗き込む4人にブルーはうなずいてみせる。
「早く奴を倒さないと…!」
 立っているのがやっとの状態のブルーに、スーパーダイナマイトをさせるのはさすがに気が引けるレッドだったが、そうも言っておられず、スーパーダイナマイトを使う決意をする。

「よーし、スーパーダイナマイトだ!」
 レッドの合図でスーパーダイナマイトの位置につき、スーパーダイナマイトをヘビシンカに炸裂させる。
 ヘビシンカは必殺技を受けて倒れた。
 5人はビッグバンプログレスに備えるが、ヘビシンカが再生進化獣であるためか、巨大化することはなかった―


 夢野博士の制止を振り切って飛び出していた島は、博士に傷が癒えるまでの絶対安静を言い渡されてしまった。
 医務室で休む島が、まだ付き添っている星川と話しているところへ、夢野博士と弾、南郷、レイが入ってきた。
「島さん、これ、夢野博士からよ。」
 レイがそう言って弾と南郷が抱えている水槽を見せる。
 水槽には新しい魚たちが泳いでいた。
「研究材料がなかったら困るだろう。最初からやり直さなくてはならないだろうが…」
 思わず体を起こし、驚いて見上げる島に、夢野博士が照れくさそうに説明する。
「島、よかったな!早く治せよ!」
 星川が島の背中を思いっきり叩く。
「痛っ!!竜さん、そんな思いっきり叩くことないだろ〜!」
 発明センター内に若く明るい笑い声が響いていた―。

―完―

 

 


「小説」トップへ

 

inserted by FC2 system