第2章


 海に浮かぶ無人の島、そこにさらわれてきた人々が捕らえられていた。「人間に尻尾を生やす」という薬を作らされているのだ。だが、全くうまくいかない。イライラしているキーラは近くにいる人間に当り散らし始めた。キーラに殴られ、倒れた青年を南郷が助け起こす。
「大丈夫ですか?」
 いたわりながらも、まっすぐにキーラを睨みつける。
「早く人間を尻尾兵に仕立てなければ、父上と兄上の仇が討てん。えーい、ベラ!急がせろ!」
「は。これらの人間を尻尾兵に仕立て上げさえすれば、ダイナマンごとき、敵ではございません。もうしばらくのご辛抱を。ですが、少々気になることがございます。たしか、ダイナマンとやらは5人だったはず。先ほど現れたのは4人。1人足りません。もしかしたら、捉えてきた人間の中に紛れ込んでいるのやもしれません。」
 そのベラの言葉に目を輝かせるキーラ。
「では、こいつらが尻尾兵になれば、同士討ちが見られるわけだな。それは見物だ。」
 2人の会話を聞いていた南郷は、いつだったか自分が化石にされてジャシンカに捕まったことを思い出した。あのときは、地上を化石だらけにするための作戦だったはずだ。たまたま、自分が化石にされてしまったことから、ジャシンカが進んで化石ガスを溶かしてくれたので大事には至らなかったが……。
 ジャシンカ帝国の地上侵攻が、人間に尻尾を生やすことが不可能であるためだということは南郷たちダイナマンも気付いていた。自分たちが初めて有尾人一族と対峙したとき、尻尾を生やす実験のために多くの人々がさらわれていたのだ。その後も、人々がさらわれることはあったが、それはジャシンカの作戦遂行のために働かされるだけであって、有尾人にされそうになることはまずなかった。
「……ま、今も似たようなもんか。なんとかみんなと連絡が取れればいいが……。脱け出せても、島みたいに泳いで帰るなんて出来ないしな…。仕方がない、みんながここを見つけてくれるまで、時間稼ぎをするか。」

 電撃戦隊基地に到着した9人。伊吹長官は、ダイナマンの4人にこれまでのゴズマとの戦いの記録を見せながら、ゴズマの脅威を語った。
 伊吹長官の話を聞きながらも、星川は相変わらず心ここにあらずの状態のようだ。
「星川さん、どうかしましたか?」
 心配そうにさやかが訊ねる。
「あ…いや…」
「大丈夫ですよ。彼はいつか宇宙人と仲良くなるんだって張り切っていたんで…。彼の中の宇宙人像が壊れてしまったから、ショックが大きかったんでしょう。」
 弾が説明した。チェンジマンたちはハッとした。一般の人々は、宇宙人と出会うことすら皆無に等しいのだ。自分たちはゴズマと戦う中で様々な宇宙人たちと出会ってきた。ゴズマに許してもらうために、自ら宇宙獣士になってしまった者、ゴズマと戦うために危険を冒してまで地球にやって来た者、ゴズマによって滅ぼされてしまった星の生き残り…。
 そういう彼らを知っているからこそ、宇宙の平和を乱すゴズマと戦っているのだ。だが、ダイナマンたちにとっては「宇宙人=ゴズマ=悪」の図式が成立してしまうのかもしれない。そう考えると、「ゴズマ全員が宇宙人」という自分たちの言葉も、ダイナマン、特に星川にはかなりのショックを与えたに違いない。
「元気を出してください。ゴズマが全員宇宙人だというのは事実ですが、何も宇宙人が全員ゴズマというわけじゃない。我々も、何度かゴズマ以外の善良な宇宙人たちと出会っています。きっと、いつか星川さんもそういう宇宙人たちと出会えますよ。そのためにも、ゴズマを倒さなければならないんです。」
 剣がみんなを見まわして言う。それに応じるように一同がうなずく。一瞬遅れたが、星川も。そして、チェンジマンとダイナマンは結束を誓い合った。

 チェンジマンとダイナマンが呼び出された竜神岬近くの地図で、ゴズマが拠点としていそうな島をいくつかピックアップしてみる。だが、どれもこれも怪しげで、なかなか絞りこめない。
 一同の表情にも疲労の色が出始めていた。
「あー、腹減ったぁ……」
 ふっと漏らした大空の言葉に、他の面々が時計を見やる。なるほど、もう夕食の刻限を過ぎようとしている。
「ちょっと食事休憩にしようか。腹が減っては…って言うしな。」
 伊吹長官の言葉にみんなもほっとしたようにうなずく。
「あ、レイ、島、動物たちのエサ、博士で分かるのか?」
 思い出したような弾の言葉にレイと島がはっとしたように顔を見合わせる。
「忘れてた…。1回帰って、博士に頼んでくるしかないようね。ジャシンカの生き残りを倒すまでは、私がちゃんとやれるかどうか分からないし。」
「そうだな。俺も。博士にも今回のこと、報告してくるよ。」
 レイと島が言うと、弾も星川もうなずいて見せた。
「じゃあ、僕がお送りしましょう。なんでしたら、僕が代わりに島さんの用事も済ませてきましょう。」
 ちょっと気取って見せながら疾風が前へ進み出た。
「またぁ…疾風さんったら…。」
 そんな疾風をさやかと麻衣が呆れたように眺める。
「ありがとうございます。でも、ちゃんと車もありますし、島さんのことは島さんでないと分かりませんから。」
 やんわりと断ろうとするレイだったが、途中何かあってはいけないからと、疾風も食い下がる。
「それに、僕がいれば、後で帰ってくるときにすぐに通れますよ。」
 基地内に入る際のチェックのことを言っているのだ。たしかに、チェンジマンの1人が一緒であれば、すぐに信用してくれるだろう。

 レイと島は顔を見合わせ、お互いの意志を確認するようにうなずきあった。
「分かりました。僕が運転しますので、疾風さんも一緒に来てください。ゴズマについて、博士に説明していただけるとこちらも助かります。」
 島が言うと、疾風は一瞬表情を緩ませたが、すぐに引き締めてうなずいてみせた。その様子を見ていた剣たち残りのチェンジマンは苦笑して頭を振る。一方、弾と星川はポカンと疾風を眺めていた。
 その後すぐに疾風、島、レイの3人は電撃戦隊基地を後にした。


      
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